SNOWLOGの日記

静かに地道に暮すことを目指します。X(旧Twitter)もやっています。

小林信彦著『生還』(文藝春秋)を読む。

 脳梗塞は恐ろしい病気ですね。


 小林信彦氏はわたしの好きな作家の

一人です。

 氏は映画やミステリなど

サブカルチャーに詳しい作家です。

サブカルチャーという

ジャンルの創始者のおひとりでもあります。

メンズマガジンの元祖と

いわれた雑誌の編集長でもありました。


 氏は永井荷風谷崎潤一郎太宰治が好きで

その影響を受けていますね。

落語と夏目漱石の影響も受けています。

漱石の「坊ちゃん」をうらなり先生の視点から描いた

「うらなり」という作品もあります。

おとなしいうらなり先生からみると

坊ちゃんは非常識で奇怪な人物となります。


 さて、この『生還』ですが、

小林氏は2017年4月に、

自宅の一階でハリ治療を受けた後に

自室のある二階へ行こうとして、

脳梗塞の発作を起こしました。

起きようとしても転んでしまいます。

左手で眼鏡のつるをつかもうとしても

つかめません。


 幸いなことに、そのとき自宅には

奥様と娘さんがいました。

娘さんは小林先生の二番目のお子さんで、

出版社の編集者です。

奥様も映画雑誌の編集者でした。

 この娘さん(『笑学百科』に出てくる

ギャグ娘だとおもわれます。)が、

「父の状態は、脳梗塞で、右の脳に梗塞が起きたのだ」

と直感したようです。


 すぐに急性期の病院に救急搬送しました。

M病院という病院ですが、

この病院の対応は

脳梗塞の発作起こした急性期の患者を

手当てをするにはギリギリの時間内で

上手くいったようです。

この病院での時間は夢の中のことのようです。


 リハビリを開始して

少し落ち着いたのか、

医療関係者や他の患者さんを

観察しはじめます。

 患者さんのダンケさんや

ニュージャージーさんや

閣下(自衛隊関係者のようです)や

患者さんの御家族のカナコさんを

めぐるやりとりなどユーモラスに描いています。 


 急性期を脱して

つぎはリハビリテーション専門の

H病院に移ります。

この病院では著名人がリハビリをしています。

入院費も高額ですね。

 リハビリ専門病院なので

医師も風邪薬をなかなか

処方してくれなかったようです。

処方はできるが、風邪ごときでと

いう感じのようです。


 症状が落ち着いて

リハビリをしているのですが、

小林氏本人の精神状態も

だんだん落ち着いてきて

医療関係者を観察し始めています。

深川男(イースト21の近所に住んでいる人)

バッチリ天使(口癖がバッチリ)や

ST乙女(言語療法士の人)や

偽モリシゲ氏(挙措が俳優の故・森繁久弥さんの

演技に似ていることからこのあだ名のようです)

や血圧女(血圧計る看護師の人らしいです)など

つぎつぎとあだ名をつけていきます。


 このことについては娘さんから

「文章で人を傷つけないように」

とたしなめられます。

この辺はほのぼのとして笑います。


 リハビリテーションのH病院を退院してから

自宅に戻りますが、危ないので二階の自室へは

いけなくなってしまいました。

浴室も一階に増築したようです。


 一階で生活していましたが、転倒して

左の大たい骨を骨折してしまいます。

今度はJ病院へ搬送されます。

ここで手術ですね。


 つぎにリハビリの病院のR病院へ移ります。

R病院を退院してから自宅に戻ったのですが

再び転倒して骨折して、たまたま自宅に来ていた

理学療法士に抱えあげられてベッドに寝かされますが、

J病院へまた搬送されてしまいます。

 倒れた時に誰かそばにいるというのは

運がいいですね。


 しかし、脳梗塞はたいへんな病気です。

あるとき突然症状が出てくるので

それまでできていたことが、

まったくできなくなるのですから。


 小林氏の知人で同じ病気を患った

作家の故・野坂昭如氏は、

脳梗塞になったときに

「もっともなりたくない病気になった。」

と言ったそうです。

 映画監督の故・大島渚氏も

脳梗塞で全介助となってしまいました。

発症の原因は酒かタバコかなと思います。

 小林氏は喫煙はしない(かつて喫煙者だったがやめた)、

お酒はほとんど飲まないので

発症が遅れたのでしょう。

 運動不足と美食と

家系(お祖父さんが脳梗塞

お母さんが高血圧に糖尿病)

からきているのではないでしょうか。

 虚弱を自覚しているから

長生きしてるとは

書いていました。


 10年以上前の過去のコラムから、

自宅前で2回転倒したり

自宅内でものを落としてうずくまったり

していたので、このころから脳梗塞

患っていたのではないかと思います。


 講演でもあまりうまく話していなかったので

お年の影響なのかと思っていました。

 ラジオ出演時にも言葉がちょっと

変だなと思っていました。

 
 利き腕が右でよかったと

いうようなことを書いています。

原稿を書くこともリハビリに

なっているようです。

 84歳で週刊誌に連載を

もっているのはすごいと思います。


 『生還』は悲惨な日々をおくりながらも

さらっとしたユーモアがあって

そこはさすがにプロの作家なのだなと思います。


 高齢者が家族に居る方々、

脳梗塞のリアルを知りたい人には必読の本ですね。



最後まで読んでいただいてありがとうございます。


生還

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